徒桜(あだざくら)
- 2014/04/06
- 22:14

徒桜(あだざくら)肩におりてきたものへ手をやると、それは花びら。生まれたばかりの、白く、ふっくらとした桜の花。最後には散ってしまうものが、手のひらの合わせた形をとって開いていく。離れ離れになるためにつぼみをやわくほどきはじめる。木立にたたずんでいると息づく花々に酔いしれて、見つめる今が、今ではなくなる。三年前、十年前の春の光景に帰っていく。眠っていた季節を取り戻すため、枝先は雪を落としてま...
大きく産んであげるね、地球
- 2013/12/31
- 13:31
目を閉じれば、私は消える。まばたきの隙に、あの一瞬の暗闇のときに、からだは別の何かへすり替わっていく。私が地球をはらんだのは誰のしわざでもない。まぶたの裏に一幕の宇宙をひろげてここからずっと、覚えている。私を子ども扱いするのなら地球、お前を産んでみせよう。子宮の内にふくらませ、お前をひそやかにまわしてやる。覚えたての自転はぎこちなく、ときおり子宮の壁にすり寄ってくる。未熟な重力のため、宇宙へ絶え間...
狐女子高生
- 2013/12/31
- 13:25
つむぎたいのは、その不規則な体温。手肌をつらぬく つむじ風。プロセスは机の隅に押しやって唇に海を満たす、吐く。たおやかに 狂いだす血潮。この学校ができる前はねここで狐を育ててたんだって。そう告げて、振り向いたあの子の唇は、とっても青い狐火だったね 覚えてる。(狐女子高生、養狐場で九尾を振り回す。(狐女子高生、スカートを折る。(短きゃなお良い至上主義。(十八歳は成人である由、聞きつけて(選挙に行った...
あたしは天啓を浴びたのだ
- 2013/12/31
- 13:19
せっけんの溶けた水を吸ってくったりと重くなったシャツ。衣服というより、生きものに近い。握りしめると、指のあいだから白い泡が溢れてくる。ほどいた生きものにはひと並び、手術の痕のように赤いボタンが縫いつけられている。(いままでお世話さまでした。「きみは孕みやすいから、おかあさんになるといいよ」という天啓を浴びた誕生日の朝、ランドセルを残して家を出た。声が海ならうたうたいに、疾風を漕げばランナーに、髪を...
洗濯日和
- 2009/12/29
- 19:53
「干さないくせに回すなんて」とぼやく母を尻目に、私はまだぬくもりの残る制服たちを水の中へ沈める。腕を折り、首に手をかけられ、引きずり込まれるブレザー。水はスカートをひるがえし、底の方へ駆け出した。赤ランプは数えはじめる。汚れが一掃されるまであの教室の記憶を消し去るまであと何分何秒。粉せっけんの計量スプーンは水色をしているけれど本物の水の色とは似ても似つかない。せっけんをすくい出すと袋の奥をまさぐっ...